「フレット」と言えばギターやベースの音程を決定づける重要な部品ですが、ギターを語る上であまり話題の中心とならない部品ではないでしょうか。
そんな縁の下の力持ち的な役割を担っているフレットですが、サイズや材質によってサウンドや弾き心地に大きな影響を与えています。
今回はそんなフレットの材質やサイズの違いがもたらす影響や、フレットのメンテナンス方法など、様々な切り口からフレットについて解説していきます。
フレットの材質
1.ニッケルシルバー
フレットの定番素材です。スペックに特に記載がなければ大抵このニッケルシルバー製のフレットが使用されています。メーカーとしては三晃製作所やJim Dunlop社あたりが有名です。
近年では耐摩耗性の向上や音質の変化などを狙ってチタンや銅などを配合した製品も登場しています。
ニッケルシルバー製のフレットはフラットでバランスのとれた出音となる傾向にあります。最もよく使われている材ですのでスタンダードなサウンドと言えますね。
広く流通していることもあり種類も豊富で、交換にかかる工賃も安めです。
デメリットは後述するステンレスと比べて柔らかいため磨耗しやすいこと、手入れを怠るとくすんだ色となってしまうことなどが挙げられます。
2.ステンレス
ニッケルシルバーのデメリットである耐摩耗性の低さを解消すべく登場したのがステンレスフレットです。ニッケルシルバー製フレットはある程度のスパンでメンテナンスや交換が必要ですが、ステンレス製フレットにおいてはその必要はほとんどありません。
ステンレスフレット最大の特徴は何と言ってもその硬さ。製品にもよりますが、ニッケルシルバーと比べて約1.5倍ほどの硬さを誇ります。
その硬さゆえステンレス製フレットを採用した場合高域がよく出るようになったり、サスティーンの伸びが良くなったりします。また、表面が非常に滑らかであるためスムーズなチョーキングが可能であることもメリットのひとつ。
デメリットとして、人によっては高域が出過ぎてキンキンした音と感じてしまう場合があること、ニッケルシルバーと比べて交換工賃が高くなってしまうことなどがあります。
ステンレスフレットはFreedom Custom Guitar Resarch社やJescar社などが有名どころです。Freedom製は比較的柔らかくニッケルシルバーに近い傾向を示し、Jescar製はかなり硬くステンレスフレットらしい音の傾向になります。
フレットの大きさ
フレットには高さや幅の違いによって多彩なバリエーションが存在し、演奏性や音に変化が生まれます。
世の中に流通しているフレットの高さは1.0mm〜1.5mmほどで、幅は2.0mm〜3.0mmほど。大きさによって「ジャンボフレット」や「ミディアムジャンボフレット」などと呼ばれることもあります。
フレットの高さが与える影響として、高いと押弦が楽になり、チョーキングがしやすくなる一方でピッチが不安定になりやすく、低いとスライドやグリッサンドが容易になるものの磨耗が早くなるなどがあります。
フレットの幅は広いと早弾きがしやすくブライトな音に、狭いとサスティーンの伸びがよくウォームな音となる傾向にあります。
フレットのメンテナンス
弦高やネックの反りなどと比べてなかなかメンテナンスの意識が向かないフレットですが、ある程度のスパンでメンテナンスをしてあげることで弾きやすさやギターやベースが持つ本来のトーンを保つことができます。
1.フレット磨き
ギターを演奏していると多かれ少なかれフレット表面には傷やくすみが生じますが、それらを放置してしまうとチョーキングやビブラートをした際に音が詰まってしまたり曇ったようなトーンとなったりしてしまいます。
そこでフレット本来の性能を取り戻すためにフレットを磨くわけですが、フレット磨きは意外と簡単にできますので是非ご自身でトライしてみましょう。不安な方はお店に依頼してもいいですね。
磨き作業はホームセンター等に売っている「ピカール」などの金属用磨き剤(コンパウンド)や細目の磨きクロスなどを使用します。
歯磨き粉でも代用可能ですが、研磨能力では金属専用のものに劣るうえ、万が一指板に付着してしまった場合白い汚れがついてしまうおそれがあるため注意しましょう。
フレット磨きに必要なもの
- 研磨剤(または金属磨きクロス)
- 柔らかい布(研磨用と拭き取り用の2つ)
- マスキングテープ
手順としては
- 指板にマスキングテープを貼る
- 研磨剤を柔らかい布に少量つけ、フレットを磨く
- 乾いた布でフレット表面を拭き取り、マスキングテープを剥がす
のように行います。
ポイントは「マスキングテープの貼り付け」です。マスキングテープが綺麗に貼られていないと研磨剤が指板に付着し、指板材の導管が詰まってしまいますので慎重に行いましょう。
頻度としては1年に1度くらいのペースで行うのが良いでしょう。
2.フレットすり合わせ
フレット磨きはフレット1本1本を磨く作業でしたが、すり合わせは全体のバランスを見ながらフレットを削っていく作業となります。
先述の通りフレットは弦とこすれ合うことにより徐々に磨耗していきますが、全てのフレットが均等に磨耗していくわけではありません。
プレイスタイルによりますが最も磨耗しやすいのは1、2弦のハイポジション。エリクサーなどのコーディング弦を使用していると磨耗がより早くなる傾向にあります。
フレットが偏磨耗してしまうとチョーキングの際に音が途切れてしまったり、ある特定のフレットのみビビリが生じてしまったりするなどの問題が発生します。
この問題を解決するために行う作業がフレットのすり合わせというわけです。
すり合わせ作業は磨き同様指板にマスキングを行い、平らな板に紙やすりを張ったものでフレット全体が均等な高さとなるまで削っていきます。その後平らになってしまったフレットの頂点をヤスリ等を使って元の半円状に整形していく、といった流れです。
フレットのすり合わせは専用の工具が多く必要となり、非常に手間がかかるうえ経験も必要な作業ですのでお店に依頼して作業してもらうのが賢明です。
3.フレット交換
長年ギターを使っているとすり合わせでは対処しきれなくなるほどフレットが磨耗してきますので、その際はフレットの交換が必要となります。
フレット自体は3000〜6000円程度で購入できますが、フレットの交換作業はフレットすり合わせと同様に専用の工具が必要であったり、知識と経験がモノをいう作業であったりと、個人で行うのにはかなりハードルの高い作業となります。交換はショップに依頼しましょう。
工賃はショップによって異なりますが、おおよそ3〜7万円ほど。メイプル指板を採用したギターは交換に手間がかかるため工賃が高くなります。
フレットレスギター(ベース)について
フレットレスギター(ベース)はその名の通りフレットが打ち込まれていないギターやベースを指します。フレットの代わりにラインが引いてある製品もあります。
フレットレスはベースの方が多く、ギターはあまり見かけません。
フレットがないことによってピッチが安定しないため、フレットレスのギターやベースを使いこなせるようになるには相当な練習が必要となります。また、ビビリが発生しやすいためネックの反りの調節が非常にシビアとなります。
しかしフレットレスは抑揚やビブラート、スライドなどの表情が出しやすく、フレテッド(フレットが打ち込まれたもの)では出すことのできない独特なトーンと相まって、高い人気を誇るジャンルでもあります。
0(ゼロ)フレット
ギターの中にはナットのすぐ下にフレットが打たれているものも存在します。
これが「ゼロフレット」と呼ばれるもので、グレッチのテネシーローズやモズライト、一昔前のGibson製ギター(ナットと一体化したもの)などに採用されていました。
ゼロフレットのメリットは「弦高を低くできること」、「開放弦の鳴りが押弦時と変わらなくなること」などがあります。デメリットとしては弦の荷重が一点に集中するためゼロフレット自体の摩耗が激しいことが挙げられます。
近年の製品でゼロフレットを採用しているものは稀で、廃れつつある技術(フレット)となってしまっています。
最後に
フレットはギターを構成する部品の中で弦が直接触れている数少ない部品ですのでサウンドや弾き心地に大きな変化をもたらします。
フレットは弦やピックアップなどのように気軽に交換できる部品ではありませんが、交換の際にはそれぞれの特徴をしっかり把握し、自分のプレイスタイルにあったフレットを選べると良いですね。