「Xブレーシング」や「トレッスルブレーシング」など、アコギやフルアコのスペックを語る上で時折出てくる単語たち。
この「ブレーシング」、果たしてどんな役割があってどのように出音へ影響を与えているのでしょうか。
そこで今回はあまり表立って語られることの少ないブレーシングについて深掘りしていこうと思います。
ブレーシング(ブレイシング)とは?
ブレーシングは日本語に訳すと「力木」という意味になります。
力木とはアコギやフルアコなどの中空ボディのギターを補強したり、ボディ全体に弦の振動を伝達させたりするための四角い棒のことで、トップ材とバック材それぞれの内側に貼られています。
力木の組み方や大きさによって振動の伝わり方が変わる(=音が変わる)ため、アコギやフルアコにとって非常に重要なパーツと言えます。
スキャロップブレーシングとノンスキャロップブレーシング
ブレーシングに用いられる木の棒は、スキャロップブレーシングとノンスキャロップブレーシングとに分けることができます。
それぞれにはどんな特徴があるのでしょうか。
ノンスキャロップブレーシング
ノンスキャロップブレーシングは、横から見たときに両端にのみ加工が施されている通常タイプのブレージングです。
両端しか加工していないため強度は抜群で、ヘビーゲージの弦にも対応できるたくましさが魅力です。
ただしブレーシング自体の質量があるため木材本来の鳴りを活かしきれないといったデメリットがあります。
ノンスキャロップブレーシングを採用したギターは芯のある太いサウンドとなる傾向にあります。
近年では加工技術も発達し、ノンスキャロップブレーシングでなくとも十分な強度を得られるようになっているため、ノンスキャロップブレーシングを採用したギターはあまり見かけなくなってきています。
スキャロップブレーシング
スキャロップブレーシングは指板のスキャロップ加工のように中央部をえぐり取ったような形状をしているブレーシングです。
基本的にブレーシングは質量が大きいとトップ材やバック材の鳴りを殺しやすくなる傾向にあります。
そこでブレージングをできるだけ小さく、軽くしたいわけですが、ブレーシングを少なく(小さく)しすぎてしまうとかえって強度が弱くなり、弦の張力に耐えられなくなってしまいます。
そこで「軽さ」と「強度」の2つをバランスよく両立できるようにと考えられたのがスキャロップブレーシングです。
スキャロップブレーシングを採用したギターはトップ材やバック材が持つ本来の音がよく出るきらびやかなサウンドとなる傾向にあります。
強度はどうしてもノンスキャロップには劣りますので極端に太い弦を張ることは避けた方がいいでしょう。
ブレーシングの種類と特徴
ブレーシングはトップ材やバック材に貼られますが、その貼り方によってギターのサウンドや強度に大きな影響を与えます。
ここではブレーシングの配置の種類とそれぞれが持つ特徴について紹介していきます。
Xブレーシング
その名の通り「X」のような形状をしているXブレーシングは、アコースティックギターで最も一般的なブレーシングです。Casinoなどのフルアコには形を簡素化したものが採用されています。
マーチンが1850年代くらいに発明したとされる歴史と伝統あるブレーシング。
少ないブレーシングの量で十分な強度を確保できるため、バランスがよく扱いやすいサウンドとなります。迷ったらXブレーシングにしておきましょう。
ダブルXブレーシング
先述のXブレーシングの発展系です。
Xブレーシングの強度をさらに高めた形状で、ヘビーゲージにも対応できる頑丈さを持っています。
強度を優先しているため鳴りはあまり良くなく、サスティーンの短いドンシャリ気味の音となる傾向にあります。
ラダーブレーシング
最もシンプルな形状のブレーシングで、比較的安いギターに使用されています。イラストの色が濃くなっている部分には薄い平板が貼られています。
ブレーシングの数が少ないため、鳴りが良すぎて音が暴れやすいものの、温かみのある いなたい音が特徴です。
カーシャブレーシング
一見ブレーシングを適当に並べたような形状をしていますが、弦の振動を効率よくボディに伝達できるよう計算され、配置されています。
アメリカの研究者であるマイケル・カーシャ氏が発明したためこのような名前となったそうです。
ギターだけでなくウクレレなどにも使用されるカーシャブレーシングは、強度が高いのにも関わらず鳴りが非常に良いため、ややハイの出た非常に抜けの良いサウンドとなります。
Xブレーシングのさらに上をいくブレーシングです。価格が高くなってしまうのがデメリット。
ラティスブレーシング
格子状にブレーシングを配置した形状となっており、強度の高さはトップクラス。
必然的にブレーシングの量が多くなるためブレーシングを細くしたり、スキャロップブレーシングを用いたりするなどの軽量化が必須の形状です。
ラティスブレーシングを採用したギターは音の立ち上がりが早く、パワーのあるサウンドとなります。また、音量が大きいのも特徴のひとつです。
ファンブレーシング
その名の通り扇状にブレーシング材を配置したブレーシングです。
剛性はそれほど高くありませんが鳴りは良いため、ピッキングニュアンスをつけやすく繊細な音となるのが特徴です。
弦の張力がそれほどかからないナイロン弦やガット弦のギターによく使用されます。
V-Classブレーシング
アコースティックギターメーカーであるテイラーが開発したブレーシングで、今後テイラー製のギターは順次V-Classブレーシングへと切り替えられていくようです。
シンプルながら強度は一級品で、「鳴り」と「強度」をより高い次元で両立できる形状となっています。
音の粒がはっきりしており、クリアでモダンなトーンとなるのが特徴です。
パラレルトーンバー
ここからはフルアコによく使用されるブレーシングを紹介していきます。
パラレルトーンバーは、トップ材に2本のブレーシング材を平行に並べた形状をしています。
比較的薄いボディのフルアコに採用されることの多い形状で、薄いボディでも大きなボディを持つギターのような箱鳴りを強く感じられるのが特徴です。
トレッスルブレーシング
6120などでおなじみグレッチの代名詞とも言えるブレーシングです。
ボディトップを補強するのに加えてバック材までブレーシングが伸びているのが特徴。
これによってフルアコのエアー感を保ちつつ、セミアコのようなクリアで扱いやすいサウンドとなります。ハウリングを抑制できるのもメリットのひとつです。
MLブレーシング
近年のグレッチ製ギターに採用されているブレーシングです。
トレッスルブレーシングのネック側の支柱をなくした形状となっています。これによってトップ材がより振動するようになり、薄いボディでもよく鳴るようになります。
トレッスルブレーシングよりもやや箱鳴り感が強く出てモダンなサウンドが特徴です。
最後に
一口にブレーシングといっても様々な種類があり、どれもまた違った特徴を持っていることがわかりました。
ブレーシング、意外と奥が深いんですね。
ギターを購入する際はトップ材やバック材などに目が行きがちですが、「ブレーシング」という視点から選んでみるのも良さそうですね。