ギターの音を決定づける上で重要な役割を担っている「弦」ですが、どんな素材が使われているのかとか、どのようにして作られているのかなど、意外と知らないことが多いのではないでしょうか。
そこで今回はエレキギター弦の製造風景から素材や太さが出音に与える影響など、様々な視点からギター弦に隠された秘密を暴いていこうと思います。
弦はどうやって作られる?
ギター本体と比べて弦を製造している光景はほとんど見たことがありませんよね。
ギター弦は一体どのような作業や工程を経て私たちの手に渡っているのでしょうか。
その様子がよくわかる動画がこちら↓
動画ではダダリオ社の工場における弦の作り方を紹介しています。
序盤は品質管理についてで、厳しいテストを行ったうえで弦が生産されていることがわかります。
1:07あたりから実際に弦を製造するプロセスを見ることができます。
ボールエンドの製造工程から始まり、袋つめされる工程までを紹介しています。特に巻弦を作るシーン(2:36〜)は一見の価値あり。見ていて気持ちいいのは私だけでしょうか。
こうして見るとほとんどの作業を機械が行っていることがわかります。世界中のギタリストへ届けなければならないわけですから当然といえば当然ですね。
弦の材質
エレキギターの弦は金属でできていますが、よく使用されるのが「ニッケル」と「ステンレス」です。
それぞれにはどんな特徴があるのでしょうか。
ニッケル
あまり聞き馴染みのない名前ですが、ニッケルは100円玉などの硬貨や充電池等にも使用されており、割と身近な金属であると言えますね。
ニッケルはエレキギターの弦において最もスタンダードな材質です。迷ったらとりあえずニッケルにしておけば問題ありません。
メーカーによって多少特性が異なるものの、ニッケル製の弦はほんの少し高域の出たバランスのいい素直な音が特徴です。安価かつ入手しやすいのもメリットのひとつ。
後述のステンレスと比べると錆びやすく、寿命が短い傾向にあります。
ステンレス
ステンレスは鉄とクロムを配合した金属です。ニッケルが配合されているものも存在します。
ステンレスはその名の通りステン(汚れ)がつきにくいのが最大の特徴。このためステンレス製の弦はニッケル製のものと比べ長寿命となっています。
ややザラザラした肌触りで、硬いため音響特性的にはパリッとしたクリスピーな音となる傾向にあります。
カッティングやリズムプレイに最適です。
コーティング弦
先述したニッケルやステンレス弦の巻弦の表面に特殊なコーティングを施した弦です。価格は総じて高め。Elixir製の弦がコーティング弦として有名ですね。
コーティングが施されていることによってサビに強く長寿命であったり、なめらかなフィンガリングが可能となったりします。
コーティングが施されているのは巻弦のみですが、プレーン弦にも防腐処理が施されていることが多いため、弦の劣化にばらつきが出ることはあまりありません。
気になるサウンドですが、コンプ感が出て音に丸みが出るのが特徴。ややこもったような音となる傾向もありますが、アンプやエフェクターで相殺することが可能です。
弦の太さ
ギター弦の太さは「ゲージ」と呼びます。
ギターの弦には「ライトゲージ」や「ミディアムゲージ」など太さによって名前がついている場合がほとんどですが、メーカーによって呼称がまちまちであるため、実際には「0.09-0.42」や「0.10-0.46」など、1弦と6弦の太さ(インチ)で呼ぶことがほとんどです。
太い弦はサスティーンの伸びが良くなり、音も図太くなりますが、押弦やチョーキングに力を必要とします。
細めの弦は楽にチョーキングや押弦を行うことが可能で、サスティーンが短めの繊細な音となります。
弦の太さは弾き心地に直結するため、色々と試してみてご自身のプレイスタイルやギターに合ったゲージの弦を選びましょう。
ゲージを大きく変更するとナットの溝が対応しきれなくなってしまうことがあるため注意が必要です。リペアショップに持ち込むなどして調整を行いましょう。
また、あまり頻繁にゲージを変えてしまうとネックが波打ってしまうおそれがあるため、ゲージの変更は1ヶ月に1回くらいにとどめておくのが賢明です。
ラウンドワウンドとフラットワウンド
エレキギター弦のほとんどは6〜4弦が巻弦となっていますが、芯線に巻きつける巻線の断面形状によってラウンドワウンド弦とフラットワウンド弦とに分けることができます。
ラウンドワウンド弦
フラットワウンド弦は下図のように巻線の断面が円形をしている弦のことを指します。
楽器店などで販売されている弦のほとんどがこのフラットワウンド弦です。
高域がやや強く、サスティーンの伸びが良いのが特徴。
表面がデコボコになっているためピックスクラッチなどの特殊な奏法が可能であったり、弦に触れたまま指をスライドさせると「キュッ、キュッ」というようなフィンガリングノイズが発生したりします。
フラットワウンド弦
下図のように巻線の断面が四角になっているのがフラットワウンド弦です。ベースやジャズギターなどで使用されることの多い弦ですね。
サラサラした手触りで、ふくよかでウォームなサウンドとなる傾向にあります。
同じ太さでもラウンドワウンド弦と比べてテンションが強いのも特徴。
表面が滑らかな分フィンガリングノイズが出にくく、ピックスクラッチ等のプレイは不可能です。
巻線の角を削ってフラットワウンドとラウンドワウンドの中間の特性を持たせたハーフラウンドワウンド弦なるものも存在します。
メーカーによる特徴
弦の素材や巻き方によって音に違いが出るのは先述の通りですが、同じ巻き方・同じ素材を使用していても製造するメーカーによっても微妙に違いがあります。
ここでは代表的な弦メーカーをいくつか取り上げ、それぞれの特徴を紹介します。
D'Addario(ダダリオ)
ダダリオは世界で初めてラウンドワウンド弦を発売したメーカー。エレキギター弦のスタンダードといっても過言ではないくらい定番の弦です。
このダダリオ製の弦と後述するアーニーボール製の弦を置いていない楽器店はまず無いでしょう。
ダダリオの弦はほんの少しだけ高域の出たバランスのいいサウンドです。また、寿命を迎えるまでに音質が劣化しにくい、といった特性を持っています。
ボールエンド部に識別用のカラーリングが施されているのもダダリオの特徴のひとつです。
ERNIE BALL(アーニーボール)
ダダリオと並んで人気なのがアーニーボール製の弦です。
鷲が描かれたパッケージが目を引くアーニーボール製の弦は、テンションが弱く、ブライトで枯れたサウンドが特徴。このことから、Fenderのギターに代表されるシングルコイルピックアップを採用したギターとは相性抜群です。
ダダリオと比べると寿命はやや短めですが、張り替えたてのきらびやかなサウンドは他社の弦を圧倒します。
ghs
ダダリオやアーニーボールに次いで人気なのがghs製の弦。
パワーが強く、弦の分離感を強く感じられるのが特徴で、テンションは割と高めです。
歪んだ音との相性がいいのでパンクやメロコアなどを演奏する方に特におすすめしたい弦です。
Elixir(エリクサー)
エリクサーはコーティング弦専門メーカーで、「コーティング弦といえばエリクサー」なんて言われるほどメジャーなメーカーですね。
音がこもってしまったり、表面が滑らかすぎて違和感があったりするなどといったコーティング弦のデメリットを露骨に感じないのがエリクサーの特徴です。もちろん弦の耐久性も高水準。
ウォームで滑らかなPOLYWEB、ブライトで自然なフィンガリングが可能なOPTIWEB、POLYWEBとOPTIWEBの中間の特性を持つNANOWEBなど、コーティングの種類によって音に違いを持たせているため、幅広いニーズに対応している点も見逃せません。
弦のメンテナンス
エレキギターの弦は金属でできているため、手汗や湿気によって汚れが表面について錆びが発生していきます。
もちろん弦の劣化の進行を完全に止めることはできませんが、日常的に手入れを行うことによって寿命を延ばすことができます。
弦の手入れ
ギターを弾いた後にクロスで弦を乾拭きして手垢や汗を除去するのが一般的なお手入れ方法です。
もちろんそれだけでも十分ですが、新品の弦のような滑らかさを長期間維持したい場合はフィンガーイーズのような潤滑剤を使用するのも1つの手段です。
弦の交換
ギター弦が錆びてしまったり切れてしまった場合には交換が必要です。
交換頻度は2週間〜1ヶ月に一度ほど。梅雨時期や夏場は湿度が高いため交換サイクルを短くするか、コーティング弦に張り替えるのがおすすめです。
弦交換の際には指板やフレットのメンテナンスも同時に行えると良いでしょう。
最後に
弦に使用される素材や巻き方によって音が変わるのはもちろん、同じ素材・同じ巻き方でもメーカーによって音の特性が異なるのも面白いですね。
出音に大きな影響を及ぼしますし、定期的に交換が必要なパーツですので色々試してご自身のプレイスタイルや出したい音に合った弦を選べるといいでしょう。