「表面の保護」と「美観」が塗装の最も大きな役割。
もちろんギターをはじめとした楽器や車、家の外壁などもこの2つの目的で塗装がされていますが、楽器の場合塗装することによって少なからず音に変化が生じてしまいます。
ギターの塗装に使用される塗料にはどんな種類があり、どんな特徴や音の傾向があるのでしょうか。
今回はそんな塗料の中でも低価格モデルから高級モデルまで幅広く使用されている「ポリ系塗料」にスポットを当て、その特性や音の傾向を紹介していきます。
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ポリ系塗料とは?
「ポリ」とはポリマーの略で、「高分子化合物」を意味します。化学系の塗料ですね。
樹脂が塗料の中に配合されており、吹き付けると表面が樹脂でコーティングされるのが特徴。
二液性(2つの薬品を混ぜて塗装する)であることもポリ系塗装の特徴です。
ポリ系塗装の特性
ギターに使用されるポリ系塗料はポリエステル塗装とポリウレタン塗装の2つがほとんどです。
洋服などにも使用されることの多い素材なので聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
ポリエステルとポリウレタン、名前も似ていますが特性も似ています。
1.作業性と速乾性が非常に高い
ポリ系塗料の最大の特徴は、その作業性と乾燥の速さです。
ラッカー塗装は厚塗りしてしまうと液ダレが発生してしまうため、薄く塗る→乾かす→薄く塗る→乾かす... というサイクルを何度か行う必要がありました。
しかしポリ系の塗料は液ダレが起こりにくいため、ラッカー塗料よりも少ない塗装回数(1〜2回程度)で十分な厚みの塗膜を形成することができます。
また、気泡などの塗装不具合が出にくいのも特徴です。
工場でギターを大量生産するギターメーカーにとっては好都合な塗料と言えますね。
2.塗膜が厚く、硬い
ポリ系塗装の塗膜は厚くて硬い傾向にあります。
塗膜が厚くて硬いからといって丈夫なわけではなく、「硬い=衝撃に弱い」ということになります。そのため角なんかにギターをぶつけてしまうと塗膜がカサブタのようにボロッと剥がれてしまいやすいので注意しましょう。
またポリウレタン塗料特有の特性として、紫外線によって黄ばんでくることがあります。気になる方は太陽光や蛍光灯などから避けて保管するようにしましょう。
3.気温や湿度の変化に強く、メンテナンスが楽
ポリ系塗装は表面が樹脂の膜でコーティングされているため、木材が気温や湿度の影響を受けにくいことも大きなメリットです。
比較的高温多湿な日本の環境にも強い塗装と言えます。
また、摩擦や汚れ等にも強いのでお手入れも簡単。ラッカー塗装のギターほど取り扱いに注意を払う必要もありません。
ポリエステルとポリウレタン、何が違うのか?
同じような性質を持っているポリエステル塗料とポリウレタン塗料ですが、一体何が違うのでしょうか。
ポリエステル塗装とポリウレタン塗装、そしてラッカー塗装の特性を比較してみます。
ポリエステル | ポリウレタン | ラッカー | |
---|---|---|---|
塗膜 | 厚い | やや薄い | 薄い |
硬さ | ◎ | ◯ | △ (徐々に硬くなる) |
塗装しやすさ | ◎ | ◯ | ◯ |
速乾性 | ◎ | ◯ | ◯ |
コスト | 安い | やや安い | 高い |
ポリウレタン塗装はポリエステル塗装とラッカー塗装の中間の特性を持っていることがわかりますね。
ポリ系塗料は音が悪い?
「ラッカー塗装のギターの方が音は良くてポリ系のものは音が悪い」なんて噂を聞いたことないでしょうか?
一般的に塗料が厚いと鳴り(振動)を減衰させてしまうので木材本来の鳴りを得ることができません。ポリ系塗装はラッカーと比べて塗膜が厚くなりがちなので音が悪いと言われてしまうんですね。
ポリエステル塗装は塗料の性質上どうしても塗膜が厚くなってしまうため鳴りを悪くしてしまうのは否めませんが、ポリウレタン塗装は塗膜を薄く仕上げることも可能ですのでラッカー塗装とほとんど変わらない鳴りを実現することも可能です。
まとめ
ポリ系塗装の特徴をまとめると以下のような感じになります。
- 作業性と速乾性が非常に高い
- 塗膜が厚く、硬い
- 気温や湿度の変化に強く、メンテナンスが楽
- ラッカー塗装と比べて鳴りが悪くなる傾向にある(特にポリエステル塗装)
最近では塗装の技術も向上し、ポリ系塗装でもラッカー塗装と遜色ない鳴りを実現したものもあります。
どんな塗装にも一長一短がありますのでご自身の生活環境やプレイスタイルに合ったものを選びましょう。